ぶどう膜外来とは?
眼の中に生じる炎症による病気はぶどう膜炎と呼ばれ、放置すると視機能が障害され、また、白内障、緑内障などの様々な合併症を生じて失明する危険もある病気です。炎症が起こる眼内の場所や原因により、治療法も予後も大きく異なりますので、正しい診断とそれに基づく適切な治療が必要です。当科のぶどう膜炎専門外来では、このようなぶどう膜炎の診断と治療を最新の知見と科学的根拠に基づいておこない、多くの患者様の診療にあたっています。
ぶどう膜炎とは?
ぶどう膜炎とは眼内の炎症性疾患の総称です。古典的には虹彩、毛様体、脈絡膜まど、眼内のぶどう膜と呼ばれる組織の炎症を指しますが、その他に角膜(黒目)、強膜(白目)、網膜などの眼組織に生じる炎症全てを指します。ぶどう膜炎は、失明原因の上位を占める難治性疾患であり、手術合併症を防ぎ失明を防ぐには早期の診断と治療が大切です。
ぶどう膜炎の症状
ぶどう膜炎の症状は、眼内における炎症の部位、炎症の強さ、炎症の原因などによって様々なものがあります。代表的な症状としては、充血、眼痛、飛蚊症、眩しい、ぼやけて見える、視力低下などがあります。原因疾患によっては、頭痛、発熱、皮膚症状、関節痛などの全身症状を伴う事もあります。
ぶどう膜炎の原因
ぶどう膜炎を生じる疾患は多岐にわたりますが、その原因は感染症によるもの(感染性ぶどう膜炎)、感染症によらないもの(非感染性ぶどう膜炎)、原因不明なもの、悪性腫瘍などに分類されます。
我が国で最も多くみられる非感染性ぶどう膜炎には、サルコイドーシス、フォークト・小柳・原田病、ベーチェット病があります。非感染性ぶどう膜炎の原因は未だ不明ですが、その一部は自己免疫機序によるものと言われています。
感染性ぶどう膜炎は、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫等さまざまなものによって生じます。我が国の感染性ぶどう膜炎の原因として最も多いものは、ヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルスなど)があります。結核、トキソプラズマなどの感染症も、近年は環境の変化などにより減少しつつあるものの、感染性ぶどう膜炎の原因としていまだに重要です。
眼内リンパ腫はぶどう膜炎に類似した症状や眼所見を呈しますが、これは悪性腫瘍であり、生命予後に直結する疾患です。
ぶどう膜炎の診断
ぶどう膜炎の診断は、患者さんの病歴、生活歴、眼所見、全身検査所見などの組み合わせにより行います。全身検査には全身検査には採血、胸部X線撮影、ツベルクリン反応などを行いますが、他の診療科、例えば膠原病リウマチ内科、呼吸器内科、神経内科、皮膚科などにも受診して頂く事があります。
感染性ぶどう膜炎や眼内リンパ腫が疑われる場合には、私達は眼内液を用いた検査(遺伝子検査、抗体測定、サイトカイン測定など)を行います。私達の研究室では、微量な眼内液に対する網羅的検査システムを確立、運用しています。これを用いることで、8種類のヒトヘルペスウイルス、ヒトTリンパ球向性ウイルス、トキソプラズマ、梅毒、結核などの遺伝子を一括して検査する事ができます。細菌、真菌も感染性ぶどう膜炎の原因として重要ですが、これらに対してはブロードレンジPCRを用いて、細菌または真菌の存在を検査することができます。ヘルペスウイルスおよび細菌・真菌に対する眼内液のPCRは、2014年より厚生労働省に東京科学大学において初めて先進医療として認められました。眼内リンパ腫が疑われる場合は、免疫グロブリン遺伝子、T細胞受容体遺伝子、サイトカイン測定(インターロイキン10、IL-10/IL-6比)を行い行っています。
内科的治療
ぶどう膜炎は、その原因に応じた治療が必要です。多くの非感染性ぶどう膜炎に対しては、ステロイド薬の点眼、注射、内服などにより治療を行いますが、これらの治療で不十分な場合にはシクロスポリン、メトトレキさーとなどの免疫抑制剤を用いた治療を行っています。近年、生物学的製剤の一つである抗TNF-α抗体(一般名:インフリキシマブ、製品名:レミケード)がベーチェット病による難治性網膜ぶどう膜炎に保険適応となっており、東京科学大学におけるベーチェット病網膜ぶどう膜炎に対するインフリキシマブの治療症例数は世界でもトップクラスとなっています。
感染性ぶどう膜炎に対する治療には、抗ウイルス薬、抗生物質、抗真菌薬、抗寄生虫薬などを原因に応じて用います。これらの治療は原因に応じて行うため、眼内液診断等を用いた正確な診断が非常に重要であると考えています。
眼内リンパ腫は、視力低下の原因となるだけでなく、生命を脅かす疾患です。そのため我々は、眼内化学療法を行いつつ、血液内科と協力して積極的な全身化学療法を行っています。
外科的治療
ぶどう膜炎は、白内障、緑内障、硝子体混濁、嚢胞様黄斑浮腫、網膜前膜、網膜剥離など、さまざまな眼合併症を生じる疾患です。そのため、内科的治療による十分な消炎を達成した次のステップとして、外科的治療が必要となります。私達は、ぶどう膜炎に生じた合併症に対して、白内障手術、緑内障手術、網膜硝子体手術を積極的に行い、良好な成績が得られています。
一部の難治性ぶどう膜炎、例えば急性網膜壊死、細菌性眼内炎、眼内リンパ腫が疑われる硝子体混濁などに対しては、積極的な手術治療を行っています。眼内から除去された感染病原体や腫瘍細胞に対しては更なる検査を行い、より正確な診断に役立てています。