診療のご案内
小児近視外来

近視進行抑制部門のご紹介

先端近視センターの治療進行抑制部門のホームページは、新しい情報を適宜アップデートしておりますので、ご参照願います。

日本における近視の進行抑制を謳う治療法には、明確なエビデンスやコンセンサスが得られていない治療法が多くあります。先端近視センターの小児近視外来では、国際的に有効性が認められている治療法の中で、個々の患者さんにとって最適と考えられる治療法をご提案させていただきます。

近視進行を抑制するための治療を行なったとしても、完全に近視の進行が止まるわけではありません。小児近視外来では、近視進行度数予測計算表を用いて、有効な治療効果が得られているかどうかをモニターし、その効果を患者さんと共有することで、安心して治療を継続できるよう勤めております。

また近視の発症と進行には、個々の患者さんのライフスタイルが大きく影響しています。小児近視外来では、クロウクリップと呼ばれる小型のディバイスを眼鏡に装用して頂くことで、近視に影響を与える環境要因を詳細に計測することが可能です。その客観的なデータに基づき、個々の患者さんにとって、適切なライフスタイルの指導や治療法を提案させて頂きます。

近視進行度数予測計算表とは

小児近視外来では、治療効果を適切に評価できるように、近視進行度数予測計算表(図1)を用いて治療経過をモニターしております。治療の有効性を評価することができ、安心して治療を継続することが可能です。

【図1】近視進行度数予測計算表
【図1】近視進行度数予測計算表

クラウクリップを用いた適切なライフスタイルの指導

近視の発症と進行には、ライフスタイルが大きく影響します。従来のような、問診やアンケート調査を主体としたライフスタイル調査では、客観的で定量的な情報を得ることは難しく、的確な指導を行うことは難しいと考えております。新しく開発された小型ディバイスであるクラウクリップ(図2)は、眼鏡に装着することで、近見焦点距離、近業時間、照度、頭部の傾きなどの様々な情報を、負担なく収集できるように設計されています。小児近視外来では、これまで得られなかった信頼性の高い定量的データを用いて、個々の患者さんに対し、適切なライフスタイルの指導と治療の提案を行っております。

【図2】クラウクリップを用いた定量的環境要因の計測
【図2】クラウクリップを用いた定量的環境要因の計測

近視進行抑制治療のご紹介

様々な近視進行抑制治療における比較試験の結果を解析した結果、有効性が認められた近視進行抑制治療には、低濃度アトロピン点眼、オルソケラトロジー、多焦点ソフトコンタクトレンズ、累進/多焦点眼鏡などがあります。

  • 1低濃度アトロピン点眼

    アトロピン点眼は、古くから小児の近視進行抑制に有効であることが知られていましたが、副作用(散瞳、調節麻痺、使用中断後の急速な近視進行)の問題から現実的に臨床での使用が難しいと考えられていました。しかし2012年にシンガポールのDonald TanらによるATOM2 study(The Atropine in the Treatment of Myopia Study 2)の結果から、1%アトロピン点眼を100倍に薄めた低濃度(0.01%)点眼で、屈折値で約60%の近視進行抑制効果を維持しながらも、同時に副作用の問題がほぼ解消されることが明らかとなり、一躍脚光をあびるようになりました。しかしながら、低濃度(0.01%)アトロピン点眼では、近視進行の本態である眼軸長の伸展抑制効果に関しては、屈折値ほど十分な抑制効果が示されておらず、また低濃度点眼の中での至適濃度も不明な状態でした。

    そこで低濃度アトロピン点眼の眼軸長伸展抑制効果を含めた有効性と、安全性を評価し、至適濃度を決定するため、偽薬、0.01% 、0.025%、0.05%点眼を用いた2重盲検無作為化比較試験であるLAMP(Low-Concentration Atropine for Myopia Progression) studyが、中国のYamらによって行われております。各濃度の有効性、安全性がどのように示されるか、続報が待たれております。

  • 2オルソケラトロジー

    オルソケラトロジー(オルソK)は、特殊な形状のハードコンタクトレンズを就寝時に装用することで、角膜上皮の形状変化から近視矯正効果を生じさせ、日中は矯正具なしで良好な裸眼視力を得ようとする屈折矯正法です(PDF)。角膜中央の上皮が菲薄化し、周辺部が厚くなることで矯正効果を生じますが、圧迫できる上皮には限度があるため、矯正量はガイドラインでは4ジオプトリーまでとなっております。

    既報の2年間の前向き試験による成績をまとめると、眼軸長伸展で3〜6割の近視進行抑制効果が見積もられております。筑波大学の平岡らによって、10年以上に及ぶオルソKの小児の近視進行抑制に対する長期成績と安全性も報告されております。日本人のオルソKの近視進行抑制効果は、長期でも30%は期待できることが示されております。オルソKはその高いエビデンスレベルに基づく比較的確実な有効性と、着脱・管理を夜間に両親が行える点から、現時点で近視の専門診療において不可欠な選択肢の一つとなっております。小児にオルソK治療を行う場合は、専門医の厳格な管理と、両親への適切な教育のもとで、選択された症例に処方を行うことが重要となっております。

  • 3多焦点ソフトコンタクトレンズ

    多焦点ソフトコンタクトレンズは、一般的に遠用の球面度数に近用の加入度数が付加された老視矯正のための遠近両用コンタクトレンズとして知られております。一方で近年は、小児の近視進行抑制のため様々な特殊デザインを持つ多焦点ソフトコンタクトレンズが開発され、その有用性が報告されています。
    現時点でのエビデンス上は、低濃度アトロピン点眼、オルソKに次いで近視進行抑制効果が期待できる治療法と考えられています。最大の利点は、オルソKと同様に、潜在する感染性角膜炎のリスクがあるものの、その頻度と重症化がより低いと推察される点です。しかし日中に装用するため、レンズがずれた場合なども考慮すると、処方できる年齢は自分で着脱・管理が十分に可能と判断される年齢まで待つ必要があると考えられます。

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